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執筆者の写真キボタネ

【2021若者PJT】金富子さんの運動史聞き取り感想文

朝倉希実加


今回のプロジェクトでは2022年2月12日、27日、3月13日の3回にわたって金富子さんのお話を伺いました。生い立ちから「慰安婦」問題と関わるようになったきっかけ、その後の活動など金富子さんの人生について非常に貴重なお話を聞くことができました。


金富子さんは在日朝鮮人として1958年2月に生まれ、育ちました。親が熱心に民団の活動をしていたため韓国語を学んだこともあり、早くから自分が韓国人であることを自覚させられたそうです。そして中学校時代には民族差別的ないじめにあうことがあり、その際に抵抗しようにも自分自身が文化や歴史を知らないということが負い目になったと言います。在日朝鮮人として生きることの困難さや苦しさなど日本社会がきちんと向き合わなければならない問題を多く感じさせられるお話しでした。また大学時代には政治的なことから親と喧嘩になったというお話しがありましたが、そのお話しからも朝鮮をめぐる分断の問題、そしてそれが日本社会の問題であるということを感じました。


高校生の時には大学進学に関して父親と衝突したそうです。父親が高校を卒業したら嫁に行け、というのに対して母親は自分が学校に行けなかったこともあり、富子さんが大学進学できるように後押ししてくれたとお話ししてくれました。現在ジェンダーが非常に注目され、私自身は女性だからという理由で大学進学について反対されるということもありませんでしたが、当時のジェンダー価値観について改めて考えさせられました。このことは富子さんに限らず、聴き取りを行った皆さんに共通していたことだったのではないかと思います。


金富子さんが「慰安婦」問題と出会っていくのは大学時代に「アジアの女たちの会」の会誌を見たことがきっかけでした。韓国の女性運動と民主化運動に関する特集や「慰安婦」問題の特集を見たときに、自分が求めていたのはこれだったのだと感じたそうです。そして千田夏光の『従軍慰安婦』という本を読んだり、沖縄のペ・ポンギハルモニの映画をみたりしながら「慰安婦」問題について学んでいきます。またその頃にアジアの女たちの会の人たちと交流したことにより、それまでの枠にとらわれないようなフェミニズム的な生き方をしていることにも大きな影響を受けたそうです。


宋神道さんの裁判には訴状の中の歴史的なことを調査するという役割を担いました。歴史研究に携わっていた富子さんとして証言の裏付けをしていくということは非常にやりがいを感じたそうです。また学芸大学の修士課程に進学した際には植民地の朝鮮の教育問題を研究することにしましたが、そこには在日朝鮮人女性の問題と「慰安婦」にされた女性たちの問題の両方にたどり着くことができるのではないかと思ったということがありました。


現在も運営されているFight For Justiceについては、現在もそうだと思いますが、若者がネットから情報を得るということに対してきちんと対処してこなかったが対処していかなければいけないのではないかという思いから始まったそうです。現在、私自身もそうですがわからないことがあると、まずネットで調べるということが当たり前になっている中で、きちんとした情報を発信していくということは「慰安婦」問題を継承していく上で非常に重要なことなのではないかと思います。


富子さんは、日本軍「慰安婦」制度について家父長制と植民地主義の複合体であり、そして「慰安婦」にされた女性たちについて、女性差別、階級差別、民族差別の複合差別に基づいて集められたという風に考えるとおっしゃっていました。これは日本軍「慰安婦」問題を考える上で非常に重要なことを指摘していると思います。特に日本の一部のフェミニストたちが「慰安婦」問題についてジェンダーという視点からしか捉えられていないということに対して、私自身ももう一度そこに立ち帰る必要があるのではないかと感じさせられました。


また、富子さんの人生は自らが在日朝鮮人であることを、高校では女性であることを自覚させられ、さらに大学での出会いを通して日本軍「慰安婦」問題に出会っていくことになるわけですが、富子さんの置かれた立場を考えた時にそれは必然のようにも感じられました。日本軍「慰安婦」問題と向き合い、活動するということはある種自らと向き合うということだったのではないでしょうか。私と富子さんでは置かれている立場や時代、状況は異なりますが、それは私自身も同じことが言えるのだと思います。


富子さんの人生を聴くという経験を通じて、改めて自分自身がどう日本軍「慰安婦」問題と向き合うのかということが問い直されたように感じます。富子さんは研究・活動・子育てを同時に行うことはできないという風におっしゃられていましたが、お話を聞く中で研究者としても活動家としても非常に多くのご活躍をされたのではないかと思います。そのようなお話を聞けたことは非常に貴重な機会だったと思います。金富子さん貴重なお話をありがとうございました。

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