2022年5月10日(火)
講師:イ・ミギョンさん(韓国性暴力相談所理事)
担当:田中麻子
韓国性暴力相談所理事のイ・ミギョンさんは性暴力特別法の制定に関わったいくつかの重大な事件を紹介する。91年、9歳の時に被害を受けた被害者が30歳になった時に、21年前の性暴力被害の処罰を求めたら時効となっていたため加害者を殺害した事件。92年、父親から長年性暴力を受けていた被害者が大学生になった時に、被害者の恋人が被害者の父親を殺害した事件。当時の韓国は直系の父親は告訴できなかった。これらの二つの事件が性暴力特別法の必要性を社会に訴えた。93年12月に制定された性暴力特別法、その制定を求める運動が先駆けとなり、97年にはDV防止法、99年にはセクハラ関連法、00年に児童青少年性保護法、04年に性売買防止法が制定される。
これらの法律の制定や支援所の設置などは韓国の市民の弛まぬ努力によって実現した。韓国で行われたさまざまな市民運動、パフォーマンスの一例が紹介される。江南駅10番出口近くで起きた強姦殺人事件に対して3万7千枚以上の抗議・哀悼のポストイットが貼られた市民たちの連帯。2018年に行われた2018分のリレートークでは約34時間、計193人のサバイバーのトークが行われた。
最近の事例として強姦罪改正のための連帯の取り組みについて触れる。強姦の要件を暴行と脅迫から同意の有無への改正などを求めて国会法制司法委員会に意見書の提出やメディアへの寄稿を行い、様々な政府各委員会で法改正を要求。「#Me Too運動と共にする市民行動(21年)」などの市民の活動もそれを後押しし、21年10月現在、法案が発議された状態で戦いは今も続いている。
イ・ミギョンさんは反性暴力運動の争点と課題を以下のように考えている。
争点(1)被害者を見る視点…「可哀想な被害者」という被害者像の固定化が被害者の尊厳の回復を妨げる。
争点(2)法の客観性?合理性?…被害者の経験が生かされていない法律で刑事司法手続き上の2次被害が起こっている。
争点(3)加害者厳罰主義…GPS装置の着用や個人情報の公開などが再発防止などの視点ではなく処罰として行われる。個人を処罰することで社会文化的構造は放置される。
争点(4)性暴力予防教育…大規模集団教育には限界があるため、小規模な討論方教育を行なっていくことの重要性。
争点(5)虚偽告訴で反訴、ペンスルール等のバックラッシュ…女性嫌悪が新たな形で発露している。
争点(6)性平等専門担当部署である「女性家族省」存置…保守政党が男性票獲得のために廃止を公約に掲げる。
イ・ミギョンさんは「社会は絶対に自然と変わることはない。共に問題提起し、実践する時、私たちは変化をつくることができる」と締めくくり、視聴者からの質問では韓国で行われる積極的なフェミニズム運動についてや性教育などについて答えた。
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