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執筆者の写真キボタネ

キボタネ×高麗博物館共催イベント


「若者にとっての関東大震災100年:

ジェンダー視点で考える朝鮮人虐殺」報告


2023年9月24日(日)18:00~19:30 @高麗博物館展示室



 1923年9月1日、関東大震災発生直後から、朝鮮人が「井戸に毒を入れた」「放火をしている」等の流言が広まり、軍隊・警察・自警団によって大量の朝鮮人や中国人が虐殺されました。このとき、日本の社会主義者や労働運動の指導者も国家権力によって殺害されています。それから100年後の今日に至るまで、真相究明や証言の聴き取りが各地で精力的に行われてきましたが、虐殺の記憶を伝えていく過程でジェンダーの視点が意識されることはあまり多くありませんでした。

 今回の企画では、キボタネに集う若者世代の有志メンバー6人が、日本軍「慰安婦」被害者の人生に向き合ってきたこれまでの経験を活かしながら、ジェンダー視点で朝鮮人虐殺の証言を記憶することの意味を考えました。具体的には、西崎雅夫さんが編集した『〈普及版〉関東大震災朝鮮人虐殺の記録:東京地区別1100の証言』(現代書館、2020年)を、証言中に登場する人物の性別に注目しながら、共同作業で読み解いていきました。

 イベントの前半(第1部)では、虐殺の背景としてレイシズムや植民地主義のみならず日本社会の家父長制が強く作用していたことを、証言の読解にもとづいて発表しました。朝鮮人暴動・襲来の流言を信じ込んだ多くの日本人男性は、「家長として女性や子どもや老人を守る」という家父長制イデオロギーに扇動されて武器をとりました。なかでも、「朝鮮人男性が女性を強かんしている」という、いわゆる「レイピスト神話」にもとづく流言は、日本人男性によって内面化された家父長制イデオロギーを強く刺激したと考えられます。他方、朝鮮人女性については、「妊婦であることを装って爆弾を隠している」といった、朝鮮人男性に対するものとは異なるタイプの流言が広まったことも確認されました。こうしたジェンダーバイアスを反映した流言が、朝鮮人男性/朝鮮人女性それぞれに対する虐殺行為を正当化する根拠になったと思われます。

 また、虐殺発生時の女性たちの多様な経験も浮かび上がってきました。日本人女性のなかには、虐殺を目撃したことによる恐怖や無力感、自責の念を表明する人もいれば、流言を周囲に広めたり、男性を煽り立てたりして虐殺に加担する人もいました。他方、朝鮮人女性の虐殺場面を伝える目撃証言には、残虐な性暴力をともなう方法で殺害されたことを語るものが多くありました。性暴力の目撃証言は、朝鮮人女性の被害経験が「朝鮮人虐殺」という出来事一般には回収できない固有性をもっていたことを物語っています。このような、女性の経験の多様性や女性に対する固有の支配形態は、ジェンダーの視点を強く意識することで初めて浮き彫りになるものです。

 イベントの後半(第2部)では、会場参加型のアクティビティを行いました。発表でとりあげた重要な証言からいくつかをピックアップして参加者に熟読していただき、胸に浮かんだ感情を率直な言葉でカードに記入してもらいました。それらのカードを前方のスクリーン上に貼り付け、6人の発表者が簡単にコメントを加えました。

 日本の植民地支配や侵略の加害責任に向き合う際、ともすると真相究明や国家の責任追及といった高次の目標達成が先行してしまうことも少なくありません。その場合、証言を読むことにともなう衝撃や苦しさや感情的起伏は、軽々しく語ってはいけないものとされる傾向があります。感情を押し殺して客観的事実を重視すべきという暗黙の空気感は、これからの若い世代が証言に向き合っていくうえでは大きなハードルにもなりかねません。恐怖、悲しみ、絶望感、無力感など、証言を読むこと自体がもたらす感情の揺れを消し去ってしまうのではなく、しっかりと向き合い、ひとりで抱え込まずに集団で共有することで互いにケアをしていく。こうした安心・安全な場をいかに創出するかということが、歴史の記憶・継承において避けられない課題であることを、今回のアクティビティから確認することができました。

 今回の企画が立ち上がったのは、高麗博物館の理事の方に依頼をいただいたのがきっかけです。2023年4月29日(日)にキボタネが開催した「裵奉奇さんの花を見つけるプロジェクト」報告会に足を運んでいただき、そこでの発表を見て企画を打診してくださいました。企画の立ち上げから広報、会場のセッティングまで、高麗博物館の関係者の方々には多大なご尽力をいただきました。キボタネのメンバーを朝鮮人虐殺の証言に向き合わせてくれたことに、深く感謝申し上げます。


(文責:近藤凜太朗)

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